心に残った相続事案
心に残った相続のエピソード
私の知人にAさんという方がいます。そのAさんのお話しです。
ご実家は地方都市でお店を経営していました。
Aさんは長男として生まれたのですが、ご本人の強い希望で、ご商売を継ぐことなく東京で生活を始めました。
東京へ来てから30年ほど経った時点で、お父様が亡くなられました。
亡くなったお父様の面倒をみてくれていたのは、お母様、それにご両親の近所に住んでいた妹さん夫婦でした。
Aさんはお父様が亡くなる前から「親父の土地と建物はいらないから」と家族に言っていました。 それは長男にもかかわらず、家業も継がず東京で暮らしてきたからです。 長男たる仕事をせずに自由にさせてもらったことへのせめてものお気持ちだったようです。
その後、お父様は癌を発症し何度か手術をしました。
自由に動くこともままならない状態になり、それは長く続きました。
病気が長引いた時「本当に土地と建物はいらないんだな?」と
お父様から再度確認の連絡があったそうです。
そのときもAさんは、「うん、そうだね。申しわけない。
俺、東京で暮らしているから墓守はできないよ。」と返事をしたそうです。
「家を継ぐこともできないし、介護の手伝いもできない。だから、
実家の土地と建物はもらえないのが当然だと思っている。」とのことでした。
お父様が病気になってから、預貯金の管理をしていたのは妹さんでした。
亡くなったお父様の預金は数千万円ほどありましたが、これも「いらないよ」とAさんは辞退しました。
この時もAさんは「やるべきことをしてこなかった人間が、権利だけ主張することはできない」とおっしゃっていました。
Aさんは家業を継がなかったことや、お父様の介護をしてこなかったことに対して、
相続財産はもらわないことでお母様と妹さん夫婦に感謝の気持ちを示しました。
おそらく妹さん夫妻も納得したのではないでしょうか。
このお話を伺い、相続する者同士の譲り合いの気持ちの大切さを知りました。
相続は単に財産を振り分けるだけのものではありません。
亡くなった方が生前どのような方たちと、どのような関わりを持って生きてきたのかを踏まえて財産を分けるべきだと思います。
そのようにすることで、相続が争族にならずにすむと思うのです。
Aさんは、今も夏には墓参りをし、お正月にはご実家へ顔を見せに帰っているそうです。