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相続対策

相続対策を実行する上で大切なこととは

現在、雑誌や新聞では相続税の大増税時代がやってくるとはやし立て、
様々な業界が相続対策を有望なマーケットとして開拓しています。
例えば、信託銀行、ファイナンシャルプランナー、建設会社、不動産会社、保険代理店、弁護士、司法書士、
そして、私の同業である税理士など、本当にさまざまな人がこの相続マーケットに参入してきています。

ちょっと前の時代を思い出してみましょう。
銀行と建設会社が連携して、地主さんに借金付きのアパートやマンションの経営を勧めました。
銀行と保険会社が一緒になって保険商品の販売をしました。
それって変額保険とか言いましたっけ?
それぞれ結果はどうなってしまったでしょうか?
もう皆さんご存じですよね。

当時なぜこのようなことが起きたのでしょうか。
それは多くの人が相続で生じる問題の本質を理解しないままに、
自分が専門とするビジネスのためだけの相続対策を推し進めたからです。

相続対策の問題の本質は多面的で複雑です。とてもあなた一人では解決できません。
そのため相続対策を実行するには、実務経験が豊かで問題を様々な面から検討できるパートナーが必要なのです。
しかし、そのパートナーが「なんだか、この人変なこと言うなあ」、「おいしい話ばかりするなあ」と感じたら、
そういう人とは付き合わないことです。
まずは、自分に近寄ってくる人を見抜く力をご自身で身につけてくださいね。
それってとても大切なことなのですから。

相続の問題の解決には決まりきった正解はありません。
なぜなら、皆さん一人一人のご家庭の事情が違うからです。
こちらのご家庭では正しかった解決法も、あちらのご家庭では間違った解決法になることがあります。
専門家が勧める解決法が、あなたに当てはまらないことだってあるのです。
ですから、相続対策を実行する場合、あなた自身も相続に関する知識を身につけ、
自分にあった相続対策を自分で考える必要があるのです。最初は読みやすい簡単な本からで構いません。
少しずつ知識を身につけていって下さい。

相続の「3つの対策」とは・・・・・

相続対策には、「遺産分割対策」「納税資金対策」「節税対策」の3つがあるとよくいわれます。

遺産分割対策
「遺産分割対策」とは、財産をどうやって分けるのかを考える対策です。
亡くなった方の意思を尊重しつつ、相続人ができるだけ納得できる分割が理想です。
納税資金対策
「納税資金対策」とは、原則、現金で一括納付しなければならない相続税をどうやって支払うか、
納税資金をどう確保するのかを考える対策です。
節税対策
「節税対策」とは、相続税をいかに減らしていくのかを考える対策です。

人によってこの対策の優先順位は違ってきます。
なぜなら、相続対策の優先順位は財産の大小や相続人の構成によって違ってくるからです。
相続税がかなりかかる人、財産はそれなりにあるが相続税はそれほどかからない人、
そして、相続税を全く心配しなくてもいい人などもいます。

相続税がかなりかかる人は、いかにして税金を支払うかということが重要です。
つまり、「納税資金対策」を念頭におかなければなりません。このような人は、財産の大半が不動産と思われます。
そのため、次にはどうやって遺産分けをするかという「遺産分割対策」が重要となります。
そして、最後に納税と分割に支障がない程度に「節税対策」をすべきです。

相続税を支払うとしても、それほど心配はいらないという人は、争族が起きないように「遺産分割対策」を第一に考え、
次に「納税資金対策」、最後に「節税対策」を考えるべきです。

全く相続税がかからない人は、「遺産分割対策」を考えればよいでしょう。

遺産分割対策

相続で一番揉めるのが財産をどう分けるか、つまり遺産分割の問題です。
親が生きている間は仲が良い(?)兄弟も、亡くなったとたんに遺産分割を巡って揉めることはよくあることです。
遺産分割の問題が家族内で対処しきれずに裁判になるケースもあります。
ここまで行くとその後の家族関係も壊れてしまいます。

遺産分割の問題は、それぞれの利害が対立してしまうため、なかなか無くならないのが現実です。
しかし、できるだけ家族が揉めないようにする方法はあると思っています。
揉めないための一番の方法は、相続人が譲り合いの気持ちを持つことです。
そして、親はご自身が生きている間に、相続人が揉めないように遺産分割案を考えておくことです。
それは親の義務でもあると思うのです。

遺産分割案を作りましょう

プラスの財産とマイナスの財産も含めた財産目録を作ります。
それを、誰に、何を、どのくらい分けるのか、相続人全員と話し合いをします。
親の財産をどう分けるのかという話は、子からは言いにくいものです。
親が主導権を握って遺産分割の話し合いを進めていくのです。
また、全ての財産を子に教えることがはばかられる場合は、親だけで遺産分割案を考えてもいいのではないでしょうか。

遺産分割案を作成する上で気をつけること

不動産賃貸業をしていて財産のほとんどが不動産であったり、
会社経営をしていて評価額の高い自社株があるなど、分けにくい財産がある方は注意が必要です。
財産のほとんどを後を継ぐ人に分けることになった場合、それ以外の人には何を分けますか?
相続人の間で財産分けについて不公平感が生まれないように気を付けてください。
また、財産を受け取る配偶者や子たちの経済状態や生活実態も考慮した財産分けをしてください。
例えば、あなたは良かれと思って不動産を分けたとしても、実際には現金を分けてあげたほうが良いことがあります。
そして債務がある場合は、債務についても誰に幾ら引き継いでもらうのか、
引き継いだ人はそれを返済できるのかまで考えて財産分けをするようにしてください。

納税資金対策

納税資金対策は、換金性の高い資産をどれだけ持っているかが決め手となります。
相続税の申告と納税の期限は、相続が開始してから10カ月以内です。
この10カ月で相続を現金で一括納付することが原則です。納税資金の財源として以下のものが考えられます。

1.現金・預金
これが多ければ、納税資金に苦しむ必要はありません。
しかし、土地持ちの資産家や自社株持ちの資産家が多い現状では、
納税資金を前もって預金している方は少ないと思います。
残念ながら、別のことに使ってしまいやすいのもこの現金や預金なのです。
2.株などの有価証券
有価証券には、利回りが低いけれど安定したものや、ハイリスクハイリターンなものがあります。
確かに現金化しやすいというメリットはありますが、納税資金のためにあえて有価証券を
購入する必要があるのかどうかは疑問に思います。
相続はいつ起きるのか予想はできません。
それを考えると、特にハイリスクハイリターンの商品は購入すべきではないと思います。
3・銀行からの借入金
担保があれば、銀行は相続税の納税のための資金を貸してくれることもあります。
しかし、借入金で納税した相続人は、返済原資がしっかりしていないと返済に苦労することが多いようです。
借入に頼らない納税資金対策を実行したいものです。
4.賃貸不動産からの収入
賃貸不動産を多く所有している方は、この収入を納税資金に使う方法もあります。
しかし、いまや日本は少子高齢化が進み、また景気の動向によりアパートマンション経営が厳しくなっています。
私が住んでいる地域でも、当時は新築物件だったにもかかわらず、10年ほどで空室が出ている状況です。
と言うことは、相続税を納めるのに十分な収入が入ってこないこともありえるのです。
今現在、賃貸不動産を所有されている方はともかく、納税資金対として、新たに賃貸住宅を建てる方は、
十分に注意して実行して頂きたいと思います。
5.所有不動産の売却
相続税の納税額が大きく、手持ちの現金や有価証券で払いきれない場合、
相続した不動産を売却して、納税資金を確保する方法です。
ただし、できるだけ高く買ってくれる不動産業者を見つけること、測量をしておくことなど、
売却前にやっておくべきことがあります。
また、予想した金額で売れないということもあるので注意が必要です。
不動産は換金しづらい財産なのです。
6.生命保険金
生命保険金は現金で入ってきますので、納税資金としてはとても役にたちます。
ただし、いろいろな種類の保険がありますので、商品の選択を間違えないようにしなければなりません。

生命保険金は納税資金として以下のメリットがあります。

① 必要額を準備できること
生命保険は将来必要となる金額をあらかじめ考えてから、加入することができます。
概算で構いませんから納税額をあらかじめ算出し、その場合にいくらを保険金で払うのか考えましょう。
② 相続の時期に左右されない
人の死は予想できません。
また、その時に手持ちの不動産や金融資産がどのような状態になっているかも予想しづらいものです。
相続する側の資産状態がいつも完璧というわけにはいかないでしょう。そこで生命保険を使うのです。
生命保険金は金額が変動しません。いつ相続が発生しても必要額を確実に手に入れることができるのです。
③ 「現金」という形で手に入る
相続税は「現金一括納付」が原則です。納税のために不動産を売却するとなると手間がかかります。
しかし、現金で手に入るということは、そのような煩わしさから解放されるということです。

節税対策

具体的なお話に入る前に一つ言わせてください。
節税対策は必ずメリットとデメリットがあります。相続税は安くなったが、
遺産分割がやりにくい財産構成になってしまった。
また、相続税は安くなったが、現預金が少なくなりすぎて納税資金が足りなくなった。
などということが起きないように注意してほしいのです。相続税の金額だけに気を取られると、
後になって予想もしていなかった結果を招くことがあります。
全体的な視野を持って節税対策を考えていきましょう。
さて、それでは皆さんがご興味のある節税対策をご紹介します。

1.「生前贈与」を活用する

①コツコツ年間110万円を贈与する方法
相続税の課税対象となる財産を生前に移転して、課税対象財産を減らす方法です。
この方法は多額の現金や預金を持っている方に有効です。その一方、不動産が主たる財産だという方には不向きです。
なぜなら、不動産の贈与では、110万円くらいでは贈与する面積が小さすぎ、またそのつど登記費用がかかるためです。

贈与に対しては贈与税という税金がかります。
しかし、年間110万までは贈与税は無税で財産を移転することができます。
もっと多くの財産を移転できないかとお考えの方もいるでしょう。
残念ながら、単純に多くの金額を移転すると高額な贈与税を払うことになってしまいます。
この方法は10年以上かけてコツコツと相続税の課税対象財産を減らす方法なのです。

この制度を使うコツは、相続で現金を渡すよりも、贈与で渡した方が税金が少なくなる分岐点を活用することです。
どういうことかと言いますと、例えば、相続税の税率が50%の人がいるとします。
そのような方が財産を贈与した場合に、贈与税の税率が10%で押さえられるならば、
同じ額の現金を相続で渡すより贈与で渡した方が40%も安く現金を渡すことができるということです。

これを前提として、親が200万円を分けるケースを考えてみましょう。
200万円の現金を相続で分けた場合は200万円×50%=100万円の相続税がかかります。
しかし、贈与税なら200万円-110万円=90万円 90万円に10%の贈与税の税率をかけて9万円の贈与税で
済みます。同じ200万円をあげるということに対して相続税で払うよりより贈与税で払った方が
税金は少なくすみます。このような方法で現金をコツコツ贈与して相続税の課税対象財産を減らしていくのです。

②現金預金の贈与をするとき注意すべきこと
さて、現金預金贈与で気をつけて頂きたいことがあります。
相続税の税務調査でも最も狙われている項目です。
一番やってはいけないことを言います。相続財産を減らそうとして、
生前に子供や孫名義の通帳にお金を振り込む方は多いのですが、その通帳の印鑑や
通帳そのものはあげた人が持っていて、もらった子供や孫には自由に使わせないという方がいます。
要するに「別の人の名義の通帳にお金を入れておけば、相続財産にはならないよね。」というやり方です。
実はこれではダメのです。
なぜダメなのでしょうか?

まず、「贈与」とはどういうことかを考えて頂きたいと思います。
「贈与」とう行為は民法という法律に定められています。

民法549条(贈与)
「贈与は当事者の一方が、自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、
その効力を生ずる。」つまり、「これ、あげるね。」「うん、もらいます。ありがとう。」ということです。
ということは、あげる側が一方的に、「これはあげたんだけど、無駄遣いするといけないから、
預金通帳は俺が持っていて自由に使わせないぞ。」ということでは、贈与そのものが成立していないことになります。
相続税の税務調査の時、税務署はここを指摘するのです。
「贈与は成立していないですから、その預金は、被相続人のものですね。相続税の申告から洩れているので修正申告をしてくださいね。」ということになるのです。 相続税の税務調査ではとても多い事例なのです。

さて、この現金を生前に贈与する方法ですが、デメリットもあります。
贈与してもらう側は、楽してお金がもらえるのですから、ドラ息子を作ることになるかもしれないということです。
もうひとつあります。デメリットというか、気をつけなければならないことです。
この現金の生前贈与で争族を招かないようにしなければなりません。
どういうことかと言うと、子や孫が複数いる場合です。
全員に公平に贈与をしていかないと将来の争族になりかねません。お金は誰だってないよりはあった方がいいのです。
この子、この孫には贈与するが、あの子、あの孫にはしないでは、揉める原因を作ってしまいます。

③生命保険の保険料を贈与する
さて、生前贈与の方法をもう一つご紹介しましょう。
相続税を払うより、子が所得税を払った方が税金が安くなる方にお勧めの方法です。
保険料の贈与とは、保険料の支払いに充てるための現金を贈与する方法です。
これを110万円以内に収めればもちろん贈与税はかかりません。
まず保険金の契約内容をご説明します。
・契約者は子
・被保険者は親
・保険金受取人は子
将来、親が亡くなった時に子が保険金をもらうという内容です。
この場合の税金ですが、子の一時所得となりますから子が所得税を支払います。
また、子が受け取った生命保険金は相続税の納税資金に使えたり、代償分割の資金としても使えます。

④「配偶者に対する特例」の活用
これも被相続人の財産をできるだけ少なくしておく方法の一つです。「贈与税の配偶者控除」といいます。
この制度は、婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用の不動産か住宅取得のための資金を贈与する場合、
2,000万円までは贈与税を課さないという制度です。基礎控除の110万円を合わすと、
2,110万円まで無税で財産を移転することが可能となります。この制度で一度に多額の財産の移転が可能となります。
ただしこの制度を使う時は、土地だけでなく建物の一部だけでも贈与してください。
なぜなら、建物も贈与しておけば以下のような場合にメリットあるからです。
それは、この制度を利用して既に土地建物の一部を妻に贈与した自宅を売却することになった場合に、
所得税の居住用財産を譲渡した場合の3,000万円控除の特例が夫婦二人それぞれ使え、
所得税の計算をする際に最大で6,000万円まで控除できることになります。私はこのやり方をお勧めします。

この制度のデメリットもお伝えします。
この制度は、夫が先に死亡して、妻と子が財産を相続するパターンを想定している節税策です。
しかし、現実には全てがこのような順序で相続がおこるわけではありません。
もし妻が夫より先に亡くなれば、妻の財産は夫や子が相続することになります。
せっかく費用と手間をかけて贈与しても節税という点では無意味になってしまうのです。

2.「借金して債務控除」の活用

巷でよく聞く「借金がないと相続税が大変だ」のお話です。
実際に私も多くの方からこのようなお言葉を聞かされます。

私は自分の名刺にこう書いてあります。

あなた「借金をすると相続税が安くなると聞いているのですが本当ですか?」
私「いいえ。安くはなりません。でも、借金は現金や不動産などプラスの財産から引くことはできます。」
あなた「それでは、借金してアパートを建てると相続税は安くなりますか?」
私「安くなります。でもそれは借金したからではなく、アパートを建てたので相続税が安くなるのです。」
あなた「・・・・・???」

どういうことかおわかりになりますか?

これは借金をして購入した建物や土地を、人に貸すことによって評価を減らして相続税を安くするというお話です。
借金をして賃貸用のアパートやマンションを建築する方法は、節税対策としてバブル時代に流行りました。
確かに、現金預金の評価額はストレートに評価され、全く評価を減額する要素はありません。
「あそこの銀行は評判が良くないから、預けている預金の評価は20%引き」などということはありません。
ですから現金で置いておくより節税になります。
ただここで注意が必要です。現金や預金のままでは節税にはなりませんが、現金や預金は遺産分けしやすいものです。
現金や預金を不動産に変えて節税を図る方法は、分けやすかった財産を、分けにくい財産に変えていくことにもなるのです。 本当にそれでいいのかどうなのかという判断がとても大切なのです。

行き過ぎた節税はかなりの毒を持っているのです。策に溺れないようにしてください。

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