遺言書
遺言書を作成したい
最近、「遺言書作成はブームである」といってもいいのではないでしょうか。
あちこちで、遺言書をテーマにしたセミナーが花盛りです。
あなたもそのようなセミナーに参加したことがありませんか?
セミナーも受けたし、専門家の方から「遺言書は書いたほうがいいよ」と言われているし、
なんとなく遺言書を書いてみたという方もいらっしゃるでしょう。
でも、せっかく作ったその遺言書。本当にあなたの目的をきちんと反映し、
相続対策を考えたものになっているでしょうか?
私が実際の相続の現場で見てきた遺言書には「う~ん?」と首をひねりたくなるようなものもありました。
あなたはなぜ遺言書を作成したいのでしょうか?
相続人の仲が悪く、将来は争族になる可能性
があるからなのでしょうか?それとも、特定の相続人に
特定の財産を残すためにご自身の意思を伝えておかなければ
ならないとお考えだからでしょうか?
遺言書を作成する目的は人によって様々です。
まずは遺言書で伝えたいあなたの目的を明確にしておきましょう。
そして、その目的に沿った遺言書の下書きを作成してみましょう。
遺言書は作成しているうちに、だんだん本来の目的と離れた遺言内容になりかねません。
目的が明確で、その目的に沿った遺言書を作成するのはなかなか骨の折れる作業です。
そして、これも大切なことなのですが、相続税対策も考慮した遺言書であって欲しいと思います。
簡単に申し上げると、相続税の特例が使える遺言書にして頂きたいのです。
このように、遺言書はあなたが本気で取り組まないと作成できないものです。
「ブーム」にのってなんとなく作れるものではないということをわかっていただきたいのです。
遺言とは?
それでは、まず、遺言とは何かをご説明します。
遺言とは、人が生前、死後の身分上や財産上のことについて意思表示を行い、
その死後、効力を生ずるもののことをいいます。
自分の財産については、誰でもが「売る」、「交換する」、「廃棄する」などの自由な処分を行うことができます。
遺言とは、人が物事について死後どうあるべきか言い遺すことなのですが、
遺産の処分については利害関係人が多いことから、単なる言葉では不明確となってしまいます。
そのため、「遺言書」という文書が必要となるのです。
ただし、文書ならどんなものでも良いかというと、そういうわけにはいきません。
民法は、遺産の自由な処分を認めてはいますが、その一方で、「遺言書」には厳格な要式を求めています。
つまり、法律の定める方式に従わないと「遺言書」にはならないのです。
遺言書を作成する際に、一番気にしていることがあります。
それは、「遺言能力」です。
つまり、遺言を遺す方が認知症などの症状はないのかどうなのかということです。
遺言者の真意に基づく遺言と認められないと、後日、相続人どうしの大トラブルとなってしまいます。
したがって、遺言書を作成したい方は、元気なうちに作成しておくことをお勧めします。
遺言書の方式
民法で認められた遺言書の方式は7種類あります。ここでは代表的な方式をご説明します。
普通方式として「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」があります。
このうち「公正証書遺言」が通常使われている方式です。
1.自筆証書遺言
最も簡単に作成できる遺言書です。証人が不要で自分一人で作ることもでき、費用もかかりません。
遺言者が自分で遺言の全文、日付および氏名を自署し押印するだけです。印鑑は実印である必要はありません。
作成に関しては手軽といえる遺言書です。
しかし、自署が要件となっていますのでワープロでの作成はダメということになります。
デメリットですが、紛失、偽造、改ざんなどのおそれがあります。
自分に都合の悪い内容が書いてあるとわかった相続人が遺言書を破棄することもあります。
また、遺言の内容に不備があり、ご自身の大切な意思が無効になることもあります。
更に、相続人が遺言書の存在自体を知りえない場合があります。
2.公正証書遺言
お勧めはこの公正証書遺言です。2人以上の証人の立会の下に、遺言者が口授した内容を公証人が筆記して、遺言者と証人に読み聞かせ、遺言者と証人がそれぞれ署名押印します。原本は公証人役場で保管してくれるので、紛失や偽造の恐れはありません。正本は遺言者に渡してくれます。
3.秘密証書遺言
この遺言は自ら署名押印して封書に入れた遺言書を、その内容を秘密にしたまま遺言書の存在のみを公証人役場で証明してもらうものです。遺言書の内容を秘密にできるということ以外は、公正証書遺言に似ています。
遺言を書くときの注意点
1.財産の記載の仕方に気をつけましょう
自筆証書遺言の場合に気を付けて頂きたいことです。
遺言書に不動産を記載する場合は、その不動産を特定させなければならないため、登記簿謄本と同じ記載にします。
「自宅の土地と建物」といった記載ではダメです。
また、住居表示もダメですから気を付けてください。
「地番?なんだそれ?」とお感じでしょうか。
先ほど最も簡単な方法とご紹介した自筆証書遺言にもこんな面倒な点があるのです。
2.遺言執行者を指定しておきましょう
遺言の内容を実現することを遺言の執行といいます。
遺言執行者は遺言を残した人の代理人で、遺言書の内容を実現していく人をいいます。
この遺言執行者が指定されていない遺言書が少なくないと聞いています。
しかし、遺言執行者が指定されていないとこんな時に不便です。
例えば、自筆証書遺言で、不動産の登記名義を遺言で指定された相続人に名義変更する場合です。
まず、自筆証書遺言は家庭裁判所で検認という手続を受けます。
検認を経ない自筆証書遺言は法務局で名義変更ができません。
その際、遺言執行者が指定されていれば遺言執行者が名義変更の申請代理人になります。これで手続は簡単に済みます。
しかし、遺言執行者が指定されていないと相続人全員の協力が必要になります。
その相続人の全員が名義変更することについて納得していれば問題はありません。
納得していない相続人がいると協力してもらえない可能性が出てきます。
こんな面倒なことにならないようにするためにも、遺言執行者は必ず指定しておくべきです。
なお、公正証書遺言の場合は検認手続は不要ですが、遺言執行者の指定がないデメリットは、自筆証書遺言と同様です。
3.遺留分に配慮すること
自分が持っている財産は、自由に処分できるのが原則です。
自分の死後も、自分の財産については自由に処分できます。
そのため、遺言で財産の分け方を指定すればそれが尊重されることになっています。
ただし、無制限に自由というわけではありません。例えば、妻と子供がいるのに、愛人に全ての財産を渡すという内容や、
特定の相続人だけに財産を渡すなどといった内容には一定の制限がかけられます。それが「遺留分」という制度です。
「遺留分」というのは、被相続人の配偶者や子など、遺族の最低限の生活を保障するため、
一定割合の相続財産を取り戻すことができる制度です。遺言書の内容が、遺留分を侵害している場合は遺留分を
持っている相続人が「遺留分の減殺請求」という法的な手続をすることができます。
ただし、この減殺請求には期限があります。
相続の開始または減殺すべき贈与または遺贈があったことを知ってから1年以内に手続をしなければなりません。
また贈与や遺贈の事実を知らなくても相続開始の日から10年以内に手続しないと、時効となってしまいます。
遺留分を侵害している遺言書は争族の原因となり、減殺請求される可能性が高くなります。
遺言書を作成するときは、遺留分に気を付けて書きましょう。
4.付言事項を書きましょう
付言事項に法的な効力はありません。
しかし、手紙を書くような形で残された人たちへの感謝や
ご自身の思いをつづりましょう。
残された方たちにご自身の温かな気持ちが理解してもらえます。
例えばこんな付言はいかがですか?
ちょっと長くなってしまいました。
しかし、このような付言を添えることによって、遺言が遺留分を侵害していても、
争族ならない可能性が高まるのではないでしょうか。